作品を「観る」ごとに、発⾒があります。
それは作品を鏡のようにして、何度も⾃分⾃⾝と出会いなおしているということなのかなと思います。
そして作品は、鑑賞者が「観る」たびに、新しく⽣まれ変わりながら存在し続けているのではないか? そう思っています。
作品タイトル「 i 」は、「染め」の材料である植物、藍‐indigo の頭文字からとりました。
日本の伝統的な天然染めのひとつである「藍色」は、「ジャパンブルー」と言われるほど、日本人に馴染みの深い色です。
この藍染は、染めを重ねる回数によって生まれる色の濃淡に応じて、染め重ねた回数の多い順番に、褐色(かちいろ)、紺、藍、熨斗目(のしめ)、はなだ、浅葱(あさぎ)、瓶のぞき―という美しい名前がついています。
藍色は、この地球上にある海の色、空の色、木々の緑など、さまざまな色を内包しています。
私は、この藍の色を帯びた世界を風景に求め、これまで、ニュージーランド、アラスカ、アイスランド、フィンランド、クロアチア、および日本各地を訪問し、6×7判フォーマットのフィルムにおさめてきました。
撮り始めた頃は意識していませんでしたが、構図のまん中に、水平線や地平線といった横のラインの入った写真が多く出来上がりました。
それらを眺めていたとき、ふと、亡き祖父がしてくれた話を思い出しました。
「世の中は相反するものが全部つながっている―光と影、昼と夜、上と下、生と死・・・」
それから、画面を真ん中に分けるラインを、より意識して撮影するようになりました。
その後、写真から横のラインが消えはじめました。
光と影、昼と夜、上と下、生と死・・・ 境界線をつくっているのは自分であって、そもそも全部ひとつなのでは? と思い始めた頃です。
染めたあともとどまることなく変化を見せる藍色の味わいは、「一期一会」という言葉に重なります。
私にとって撮影は、「ここに生かされているから、今ここにある光と出会えた」という喜びとともにあります。
そして、作品をとおして様々な人と出会い、つながっていけることに、心から感謝をしています。
(作家のテキストより)
※こちらは予約商品です。10月上旬の入荷を予定しておりますので、入荷次第発送させていただきます。
Editorial RM / 92ページ / ハードカバー / 297 x 210 mm / 9788419233615 / 2023年